Oil Tombstone 石油の墓石

これは化学繊維を編んで作った化学繊維のお墓である。使っている糸は、これまで自分を様々な人や場所とつないでくれたものだ。今後はその場にある素材を編んで作品を作りたいので、倉庫に眠っている1トンもの糸をどうしようかと考えていて、糸の原料や糸にまつわる様々な思い出など糸自体が持つネットワークに想像をめぐらすようになった。

アクリル糸の原料は石油である。石油は数億年も昔の生物の死骸であるという説がある。私が今手にしている糸は太古の昔の生物の墓場なのかもしれないのだ。そこでアクリル糸のお墓を作るアイデアが浮かんだ。これまで幾度となく私と人、街をつなげてくれた糸を供養する意味もある。

石が積み重なった日本の墓のデザインは仏教の五重の塔を簡略化したものであり、先祖供養の場、成仏を願うものという意味合いがある。下から段々と編んでいく行為はまるで死者を追悼する石積みの行為のようであり、重ねられる編目模様は石油が産出される地層を彷彿とさせる。

人の住むところには墓がある。生きている者の日常生活とともにあり、折に触れて訪れ、故人を偲んだり思い出したり先祖供養する場所である。この墓は日常生活の中でふと、現代の生活に欠かせない石油の起源や太古の昔に考えを巡らせる標である。