Saki Chikaraishi WILD LIFE 力石咲のワイルドライフ

2020年の始まり、世界はかつてないパンデミックによって一変してしまった。人類史上の集大成とも思えた現代社会がたった100nmのウイルスによって分断され、社会的活動がままならなく なってしまった。それまでのさまざまな社会機能は都市部へ一極集中していて、高度で精密にデザインされた編み物のようなものだったと思う。どこかが途切れれば次の段がうまく編むことができないのと同じように、成熟した社会がほんの少しのほころびにより機能不全を起こすのは今思えば当然のことだったのかもしれない。 私の近年の主要プロジェクトであった「ニット・インベーダー」の多くは都市を編みくるんできた。自身が有する、毛糸で編む、という技能を使い、そこに住む人々を巻き込みながら、街を相手にインベージョン(侵略)を行うというものだった。高度に発達した社会を、温かみのある毛糸をみんなで手編みして包む。整備管理された空間に遊びを生む。それは内向的な性格の自分が、誰にでも馴染みがあり温かさや優しさといったものを髣髴させる毛糸やニットを媒体として、社会や他者とコミュニケーションをとっていく術だったのかもしれない。ところがこのコロナ渦において、都市や場所は分断されコミュニケーションの方法は実体からリモートに切り替わりつつある。今までのように社会の隙間に編み目を作り温かみやコミュニケー ションを生み出すどころかソーシャルディスタンスを保ちお互いの命を守りながら少し慎重に活動 を行わなければならない時代が今である。都市に介入したり、毛糸の感触に実際に触れてもらったりすることはできない。しかし私には「編む」という技能がある。それならばソーシャルディスタンスを保てる山という自然の中で、古来からの編みものの目的、編んで何かを作るということを生きていくために使おう。編むことと現代の技術を駆使すれば、自然の中で生き延びれるかもしれない。何も疑わず、否定せず、自分の技能、身の回りを取り巻く全てを駆使してとにかく生きる。絶対に生き延びる。 それが力石咲のワイルドライフwithコロナである。